東京高等裁判所 昭和61年(う)522号 判決
被告人 井澤勝良こと高田治
〔抄 録〕
所論に鑑み、記録を査閲するに、本件の事実関係は、被告人において、<1>昭和六一年三月一五日午後三時一五分ころ、東北縦貫自動車道北上・江釣子インターチェンジ付近道路において、大型貨物自動車を無免許で運転し(原判示第一事実)、<2>その際、検問の警察官から運転免許証の提示を求められるや、無免許運転の刑責を免れようと企て、普通免許・大型特殊免許等を有する義兄井澤勝良の氏名を冒称したものの、結局、免許車種と異なる車両を運転した無免許運転として、同日午後六時ころ、交通事件原票中の違反者供述書欄に署名を求められ、同所に「井澤勝良」と冒書して指印し、これを当該警察官に提出し、もって有印私文書一通を偽造、行使し(同第二事実)、<3>更にその際、当該警察官の作成した「供述調書(甲)」の供述人署名欄に「井澤勝良」と冒書し、もって他人の署名を偽造し(同第三事実)、<4>同年六月二六日午後三時一八分ころ、神奈川県平塚市内において、大型貨物自動車を無免許で運転した(同第四事実)というのであるところ、<5>被告人は、同年七月二九日平塚区検察庁において同庁検察官事務取扱検察事務官から右<1>の被疑事実につき取調べを受けた際、当該違反を犯したのは被告人であり、その際、義兄井澤勝良の氏名を冒称して右<2>、<3>の各犯行に及んだものであることを自供したこと、<6>被告人が同日同庁に出頭したのは、右<2>、<3>の取調べを受けた際、本籍・氏名・生年月日については前記井澤勝良のそれを申し立てたが、住居・勤務先(被告人が住居地で経営している相高商事有限会社)・電話番号については被告人自身のそれを申し立てておいたため、被告人方に呼出しがなされたためであることが認められる。
右の事実関係に照らして考察すると、検挙警察官は、被告人の申立てにより、井澤勝良の運転免許関係を照会した結果、被検挙者が普通免許等を有するものと思料し(被告人は、同人が大型免許を有するものと誤信していた。)、交通事件原票「(5)違反事項・罰条」の「<10>補足欄」に「免許車種(普通)と異なる車両を運転」と付記しているが、本来、運転免許を全く有しない場合であろうと免許車種と異なる車両を運転した場合であろうと、無免許運転に当たることに変りはなく、適用すべき罰条も同一であるから、右補足欄の記載は単なる事情を明らかにしたに過ぎないものというべきである。従って、被告人の犯した無免許運転の罪は、既に「官ニ発覚」していたものと認められる。そして捜査機関は、「井澤勝良」と自称する被検挙者すなわち被告人を被疑者として、交通事件原票、供述調書(甲)等の捜査書類を作成し、取調べのため出頭を求めているのであり、被告人も「井澤勝良」と自称する被検挙者として、捜査書類に署名指印し、出頭に応じているのであるから、捜査機関において当該被検挙者すなわち被告人の本名が「井澤勝良」ではなく、高田治であることを知らなかったとしても、被疑者の特定に欠けるところはなく、従って、本件の犯人もまた「官ニ発覚」していたものというを妨げない(なお、前記検察事務官は、同年七月三〇日付で井澤勝良本人の「被疑者供述調書」を作成しているが、右は、被告人が犯人であることを自白した翌日に作成したものであり、その内容も、同人が前記<1>の違反を犯した事実は全くなく、当日のアリバイも存する趣旨のものに過ぎないから、その標題にもかかわらず、同人を実質的に本件の被疑者として取り扱ったものでないことは明らかである。)。
(船田 半谷 龍岡)